スイスドロー方式での格ゲーオンライン大会開催レポート

はじめに

 4月12日に、筆者が運営するDiscordサーバー「GBVSゲームセンター」にて、Bランク以下限定としてスイスドロー方式の大会を行った。

 

 従来の格闘ゲーム大会は、そのほとんどがシングルもしくはダブルイリミネーションの勝ち抜きトーナメント方式であった。大会といえば勝ち抜きトーナメント、という認識もあると思うし、納得である。

 

 しかし、オンライン大会においては、配信・運営の参加者呼び出しの負担ルーム出入りにかかる時間が大きいことや、参加者にとってもそれらの要因から待ち時間が長くなり、「長時間待機したのに一回戦で負けて終わってしまいしょんぼり…」という気分を味わう人が多く発生することなどが、個人的に気になっている部分だった(後者はオンラインに限らないが…)。

 勝ち抜き方式におけるこれらへの対処としては、時間については、単純に対戦(配信)台の数を増やす、運営の人数を増やす…という方法があると思うが、それができる状況ばかりでもないだろう。

 そして、一回戦負けへの配慮としては、ダブルイリミネーション方式があるが、これは、運営負担と大会時間が一気に跳ね上がるため、少なくとも個人開催においては、現実的とは言い難い

 

 そこで、そういった問題を解決できるのではないか、と思って今回筆者が導入してみたのが、TCG・DCG界隈でよく使われる、スイスドロー方式だ。

 

 実際にやってみたところ、詳細については後述するが運営の負担はかなり軽い

 参加者にとっても、勝敗に限らず試合数が保証されるし、実力の近い人とマッチしやすいので、実力に関わらず楽しみやすいと思う。

 他にもメリットが大きいと感じたので、格ゲーのオンライン大会を開いてみたいという人は、できれば最後まで読んでみて欲しい。

 当然デメリットもあり、絶対スイスのほうがいいよ!!と言いたいわけでもないので、そこも理解してほしい。

 

 

スイスドロー方式とは?

スイスドローの詳細については、こちらをご参考頂きたい。

https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%BC

 

ざっくりと説明すると、

 

1戦目はランダムにマッチングを行い、

2戦目は勝者同士・敗者同士でマッチング

3戦目は2-0同士、1-1同士、0-2同士で…

という具合でマッチングしていき、全勝者が一人になるまで繰り返し、

全勝者が一人になったら、勝敗数や得失点差から2位以下の順位を計算する。

 

というもの。

20~30人の参加者なら大体一人当たり4~5試合程度で終わる。 

 

今回の大会では、5試合行ったのち、上位数名で決勝勝ち抜きトーナメントを行い、勝利した人が優勝とした。

 

今回の大会の概要

  • 形式:スイスドロー → 上位数名による決勝勝ち抜きトーナメント
  • 参加者:25名(決勝トーナメント5名)
  • 運営スタッフ:1名
  • 開催時間:約2時間(うちスイスドローは1時間半)
  • 試合形式:2先
  • 合計試合数:60試合 + 決勝4試合(2先1セットを1試合とする) 
  • 開催場所:オンラインロビー(決勝トーナメントはプレイヤーマッチ)
  • 使用ツール①:Challonge(スイスドローの組み合わせ&結果自動生成)
  • 使用ツール②:Youtube (点呼・決勝配信)
  • 使用ツール③:Discord(組み合わせ画像共有、戦績報告など)

 

 スイスドローは組み合わせや順位の計算が難しいが、Challongeのトーナメント形式でスイスを選択すれば自動でやってくれるので非常に助かった。 

 

勝ち抜きトーナメント方式との比較

 同じ参加者・運営人数で、 勝ち抜きトーナメントを行った場合どれぐらい時間がかかるか、ということを経験者に聞いたところ、試合数は24試合で、約3時間程度になるだろう、ということだった(あくまで予想)。

 

 まず、時間については勝ち抜きトーナメントの予想に比べ1時間ほど短縮できているが、これはオンラインロビーを用いて一斉に試合したことが要因だろう。

 勝ち抜き方式でも一回戦はオンラインロビーで一斉に行うなどすれば、一気に時間短縮になり、スイスドローよりも圧倒的に短くなるはずだ(それをやらない人が多い理由については後述)

 なので、時間の違いは大会形式の違いによるものではないとし、ここではスルーしよう。

参加者一人当たりの試合数の違い

 そして、個人的に注目してほしいのが、試合数だ。単純な数字を比較すれば、勝ち抜きの2.5倍の試合数をこなしていることがわかる。さらに、参加者ごとの試合数の偏りも小さい。

 視覚的にわかりやすくなるよう、参加者ごとの試合数をグラフにしてみた。

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勝ち抜き方式とスイスドロー方式の試合数の違い

 

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比較用に使った、勝ち抜きトーナメントのダミーデータ

 


 勝ち抜きトーナメントでは、参加者の約半数が一回戦負け…すなわち一試合だけ戦って退場となる(※ダミーデータだと半数以上いるが、実際は半数ぐらいになることが多いと思われる)

 対して、スイスドローでは均一化されていることがわかる(※4試合の人がいるのは、参加者数が奇数の場合、毎試合一人余って不戦勝扱いになる人が出るため)

 自分が試合をしてそれを楽しむために参加する人が多いだろうから、一人当たりの試合数の平均が高ければ、その分楽しめたという人も増えるのではないかと、単純に筆者は思う。

 

 

配信視聴者の推移の違い

 また、比較の例として、今回の大会の配信視聴者数の推移と、今年の2/19と3/4にMatchingCarnivalさんで行われた勝ち抜きトーナメント大会の配信平均視聴者数の推移を表したグラフを示す。

 

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今回のスイスドロー大会(赤線の右側は決勝トーナメント)

 

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 スイスドローで行われた今回の大会では、視聴者数が常に横ばいであることがわかる。多くの参加者の出番が終わるスイスドローと決勝の境目で人数が減っているが、20人以上が最後まで見守ってくれたことがわかる。

 

 対して、面白い動きをしているのが勝ち抜きの2大会の推移だ。

 2月の大会の視聴者数は時間が経つにつれ増えているのに対し、3月は時間とともに下降している。

 その現象についての考察を以下に記載する。

2/19の大会は注目度が高かった?

 大会の種目であるGBVSの発売日は2/6だったので、発売から間もない2/19に開かれた大会は、他プレイヤーやプロゲーマーの動きを参考にしたり、GBVSの大会の雰囲気を見たりしたいという、参加はせずに観戦のみの視聴者の割合が高かったのではないかと予想できる。単純な大会参加者数も多かった。

 となれば、23時頃の決勝付近で視聴者数が増えていくのは納得である。後になればなるほど、有名プレイヤーのハイレベルな試合の比率が高くなるのだから。

 

 対して、3月に行われた大会は参加者の数も落ち着き、注目度は第一回に比べれば落ち着いていると言える。つまり、配信視聴者数に対する参加者の割合が高かったと考えられる。

 そのため、大会終盤が近づくにつれ、出番が終わったプレイヤーの比率が高くなるため、視聴者数が低下しているのではないだろうか。中には最後まで観戦する人もいるだろうが、そうでない人もいるだろう。

 

 

勝ち抜きトーナメント方式のメリット

 以上のことを踏まえ、以下に、筆者の経験上の考察を述べる。 

エンターテイメント性に優れ、観戦者が楽しみやすい

 どんなに実績のある実力者でも、一度負ければ敗退。優勝候補からすれば失敗が許されないシビアな制度だが、優勝候補に手が届かないような人にもチャンスがあるということだし、プレイヤーやキャラの相性が思わぬ結果を生み、観戦者にとっても、だれが優勝するかわからない面白さがある。

 実際、優勝候補が敗退するような番狂わせが起こると参加者・視聴者共に非常に盛り上がる

 そのため、参加者だけではなく、観戦者にも楽しんでもらう必要があるような、大規模な大会では、勝ち抜きトーナメントが適していることが多いと、筆者は思う。

 運営に規模があれば、ダブルイリミネーションにしたり、対戦台や配信台を増やしたりするなどの方法でデメリットの部分をカバーできることも多いだろう。

 

 また、終盤になるにつれて対戦者のレベルが上がるので、ハイレベルな試合が見たい観戦者にとってわかりやすい。そのことは、前述した視聴者数の推移に表れている。

 

参加者も他人の試合を観戦でき、運営・参加者が一体感を得やすい

 もともと、格闘ゲームの大会はゲームセンターなどのオフラインイベントとして始まったものだ。

 筆者も何度かそういった大会に参加したことがあるが、地元のプレイヤーが集まり、1~2台を大会進行台とし、試合中でない参加者総出で試合を見守り、応援したり、ガヤを入れたり…試合するだけでなく観戦も含めて、参加者全員が一体となって楽しんでいる、という印象があった。

 それをオンラインの場で再現する場合、他人の試合を配信で観戦できる必要があり、運営側の負担は大きくなるものの、配信台を分けるなどして、可能な限り全試合を配信で映す…という今の形になったのだろう。

 これは、全体の合計試合数が倍以上になるスイスドロー方式ではほぼ不可能だ。ロビーなどを用いて全員が同時に試合をするしかなく、観戦は不可能に近い。

 参加者全員で一つの画面を見守る一体感、これは勝ち抜きトーナメントでなければ味わえないだろう。

 

 総じて、予測不可能性エンターテイメント性、観戦者向けという点においては勝ち抜きトーナメントの方が適しているといえよう。 

 逆に、スイスドローは安定しやすい反面、最上位の一歩手前ぐらいの人がチャンスを掴みづらいかもしれない。

 

どっちがいいの?

 一言でいえば、目的と規模による、といえよう。

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勝ち抜きトーナメント・スイスドローの特徴

 運営人数が少ないなかで回したいなら、スイスドローを推したい。人数が予想以上に増えても、それに伴う運営の負担の増加が小さい。実際に開いた感想としても、手ごたえはよかった。

 逆に、運営人数・参加者・視聴者が大人数になることが予想される大規模な大会なら、やはり勝ち抜きトーナメントが定番的な意味でも適しているのではないだろうか。

 一回戦負け問題についても、運営の規模があれば、ダブルイリミネーション方式を取ることで対処できるだろう。

 

予選スイスドロー→決勝トーナメントという、いいとこどり

 そこでいっそ両方のいいところを取ってしまおうというのが、今回の大会の方式である。

 スイスドロー(以後「予選」)で全員に試合を楽しんでもらいつつ、決勝は配信することで試合が終わった人や観戦者にも楽しんでもらおうというもの。予選の間は、放送はもっぱら進行案内用として使用した。

 前項で紹介した今回の大会の視聴者推移を再度掲載する。

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今回の大会の視聴者推移


 今回の配信は限定公開なので、観戦者は少なく、予選中は参加者の25人+α。多くの人の出番が終わる赤線の右側の決勝では少し減るが、それでも20人以上が出番が終わっても最後まで見届けてくれたことになる。

 つまり、予選中は皆自分の試合に集中し、決勝トーナメントは参加者の多くが見守り観戦も含め楽しんでくれた、と言えるのではないだろうか。

 運営としても、参加者が最後まで見届けてくれて、最後にありがとう、お疲れ様と挨拶してくれれば継続のモチベーションにも繋がるというものだ。

 

 スイスドローは配信面で味気ない、と不安に感じる人には、この方法をお勧めしたい。

 

参加者の反応

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参加者25人中17人がアンケートに答えてくれ、この質問には内12名が回答してくれた。残りの5名は、格ゲー大会初参加ということだろう。

 サンプルが少ないが、割合は図のようになった。

 今回の大会はBランク以下限定ということで、そういった層の人たちは通常の勝ち抜きトーナメントでは1~2回戦で終了することが多いと思われる。そういった人たちからすれば、今回の大会は単純に試合数が多く楽しめたのではないだろうか。

 観戦者や上級者も含めたアンケートを取ればまた結果が変わってくるかもしれない。

 

 これについてはサンプルが少ないので断定的なことは言えないので、今後も傾向を見ていきたいところだ。 

 

具体的な運営の手順は?

 スイスドローの特徴はわかったけど、実際にやるときはどうするの?と思う人もいると思うので、今回の筆者の運営手順を以下に記す。

組み合わせ作成ツールの用意

 スイスドロー方式は組み合わせの決定や順位の付き方が複雑なので、自動で組み合わせと順位を算出してくれるツールが必要となる。

 例としてはsmash.ggChallongeなどがあるが、今回はChallongeを使用した。おそらく個人開催の大会ならChallongeが手軽なのでお勧めしたい。

 

対戦台の配置の決定・通知

 一斉に試合を行い、参加者に報告してもらうことになるので、一人ひとりの参加者にしっかり席の配置や報告方法を理解してもらう必要がある。

 例えば、Challongeを用いた場合、組み合わせの一つ一つに連番が振られるので、その連番に対応した対戦台をあらかじめDiscordで周知した。

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対戦台が一列に並んでいる配置が非常にわかりやすく助かった。

 このとき注意すべきなのがChallongeの組み合わせ番号は二試合目以降も加算されていくということだ。参加人数によっては2、3試合目で対戦台の番号を超えてしまうだろう。

 なので今回の大会では3試合目以降は、組み合わせの一番左上を1番として自分の座席を計算してほしいと案内した。参加者の皆さんはこちらが特に補助などせずともしっかり座席について各自対戦を始めてくれた。協力ありがとう。


戦績報告方法の決定・通知

 試合が終わった後は戦績を報告してもらう必要があるので、その方法も参加者に周知しておく必要がある。

 今回はDiscordに戦績報告チャンネルを用意し、そこに勝者が報告する、とした。

 この時注意したいのが、運営側の手間を考えれば、Challongeなどのツールに直接書き込んでもらいたくなるが、それは避けたほうがいいということだ。

 使用ツールが増えることで参加者の負担が増えるし、操作ミス、報告ミスなどのトラブルが起きる可能性が上がるためだ。

 Discordや配信コメントなどで文章で報告してもらい、運営がツールに打ち込む、とするのがいいだろう。その際、参加者の方が戸惑わないような配慮があるとなおいい(※参加者アンケートで、配信がyoutubeで報告がdiscordと分かれていて戸惑ったというご意見を頂いた)

 

当日の動き

 これについては、実際に運営している様子を見てもらうのが早いだろう。しかし、配信が限定公開だったこと、大会に参加したり配信に載ったりすることに慣れていない参加者が多いことを踏まえ、ここでの掲載は避けたい。

 運営の参考にしたい、などという方は筆者まで連絡してくれれば、urlをお渡しするので、気軽に連絡してほしい。

 

自分も大会運営してみようかな?という方へ

  特にスイスドローではDiscordがあると便利だと思うので、筆者が運営するDiscordサーバーで開いてみるのをお勧めしたい。

 

 現在加入者は2000名を超えているので、多くの人に参加してほしい人におすすめだ。

 中には大会用のカテゴリー・チャンネルを作ったので、自由に使ってほしい。

 もちろん、声をかけてくれれば運営にも協力するし、チャンネルの作成や告知なども、タイミングや内容など言ってくれればいくらでも協力させて頂きます。

 

 スイスドロー大会、実際やってみるとびっくりするほど負担は軽かったので、大会運用に興味ある人はぜひやってみて欲しい。

 

 以上、かなりの長文になったが、ここまで読んでくれた人本当にありがとう。

 データ提供など協力してくれたMatchingCarnivalの皆さんもありがとう。

 スイスドロー式大会、普及したらいいなぁ~。